2017.05.22
テレビ東京系列で毎週日曜日、そしてAmazon Primeでネット配信されているアニメ『こねこのチー ポンポンらー大冒険 – 』。世界的にはフル3DCGアニメが主流になっているが、日本発の子供向けアニメでは前例が少ない。日本よりも海外で人気を集める原作マンガ『チーズスイートホーム』の最新アニメは世界標準のフル3DCGで制作している。原作マンガの優しくも緻密な表現でファンを魅了したチーやその家族、仲間達をデジタルの世界でいきいきと魅力的に表すことに注力するチームがいる。それは、“日本から世界へ最高のエンタテイメントを届けること”をモットーにするCG長編アニメーションを制作するマーザ・アニメーションプラネット株式会社の草野公紀(くさの きみのり)監督率いるチームだ。子供から大人まで楽しめるチーの3DCGアニメはどのように作られているのか?草野監督にインタビューした。彼の回答のひとつひとつにチーへの愛と3DCGアニメ制作チームへの信頼が伺える。(取材:HEART CATCH 西村真里子)
マーザ・アニメーションプラネット株式会社の草野公紀。
3DCGアニメ『こねこのチー ポンポンらー大冒険』監督に話を伺った。
■毎話3ヶ月、のべ100名以上が制作に関わる3DCGアニメ
–チーのアニメはどのように作られているのでしょうか?
草野:3DCGアニメ『こねこのチー ポンポンらー大冒険 』は多くのスタッフの協力を得て出来上がっています。私が把握しているだけでも100人以上の人数が関わっていて、みんなで子供に愛される作品になるよう日々頑張っています。
手順でいうと、まずは脚本家チームで[脚本]を作成します。その後、[絵コンテ]でストーリーを絵に起こします。そして[ビデオコンテ]でパラパラアニメにして動き(アクション)を決めます。これを元に声優さんにお芝居してもらって、ここまで済ませた後に3DCG制作をスタートさせます。3DCG作業がある程度進んだところで効果音と曲の収録を行い、最終的に絵と音をあわせて完成となります。
左『こねこのチー』アニメ脚本表紙/右『こねこのチー』絵コンテ
『こねこのチー』アフレコ台本
–3DCGアニメーションが完成するまでには、たくさんのプロセスがあるのですね。草野監督はその中で具体的にどのようなお仕事をされているのでしょうか?
草野:脚本から始まって最終的にテレビ局に渡すまでに、たくさんのプロセスを経て作品が出来上がっていくわけですが、その一つ一つがチーの作品性に沿っているか、子供たちのための表現になっているか確認していくのが私の仕事です。大切にしているのは「わかりやすくて面白い」ということです。難解な表現は避けて、誰が見てもわかる楽しさを追求しています。
–チーのアニメは日本の子供向けアニメでは珍しい3DCG表現手法が採用されています。3DCGアニメは今までのアニメ手法であるセルアニメとどんな違いがあるのでしょうか?
草野︰3DCGは比較的新しい制作手法で、ハリウッドの3DCG映画が成功して一般に認知されるようになりました。チーのアニメもこの新しい3DCGを使っています。3DCGはセルアニメよりも工程が多くて、時間もお金もかかって大変なので、毎週放送の子供向けテレビアニメシリーズで採用しているのは珍しいのが現状です。
3DCGの凄いところ、特徴としては…セルアニメと違って立体として造形が描かれるので、配置や照明によって正確に光や影、奥行きを描き出せるところです。
–アニメ1話にかける制作期間はどれくらいでしょうか?
草野:ひとつのアニメを作るのに、脚本で約1ヶ月、絵コンテ/ビデオコンテで1ヶ月、その後CGの小道具制作やアニメーションで3、4週間かかりその後ライティングなどの工程に入るので、1話作るのに約3ヶ月程かかっています。
–毎週公開アニメの1話ごとに3ヶ月程かかっているのには驚きです。
草野:複数話並行して動かしているので混乱しないようにしないと、って常に気をつけています。
–先程制作チームは100名以上いると伺いましたが、どのような方々が参画されているのでしょうか?
草野︰プリプロと呼ばれるストーリーを作る工程では、脚本チームとして私と講談社のチーフ・プロデューサーとシリーズ構成、脚本家で6名、絵コンテはマーザ社内で3名、社外で3-4名です。私自身も絵コンテを描くことがあります。音響スタッフは音響監督とSE、エンジニアで4名。そし声優陣と、劇伴作曲家がいます。3DCGアニメーションの制作だけでいうとマーザ社内でのべ70名ほどが関わっていて、さらに外注ラインが複数本あるので…全体では100名以上の方々に関わっていただきながら制作していることになります。
–そもそものお話になりますが、草野監督が3DCGアニメ監督を目指された理由を教えてください。
草野:もともとアニメや映画が好きだったんです。大学時代は映画を作りたくて8mmフィルムを使った映像作品に取り組んでいたのですが、その頃ちょうCGが世の中に出てきたタイミングで、CGなら面白いことができそうだ!と思ったのが原点にあります。その後学校でCGを学び、ゲームの中のCGムービーパートを担当するというところからキャリアをスタートしました。
–映画、ゲーム、そして今回のこども向けテレビアニメシリーズの監督と、はばひろいジャンルのクリエイティブに精通していらっしゃるのですね!さて、草野監督だけでなく、チーのアニメのスタッフには他にも、副監督がジブリ作品に関わっていたり、絵コンテをアニメ映画監督経験者が担当していたり、多彩な才能の方が集まっているとお聞きしました。
草野︰スタッフィングはとても重要です。なので制作する上で良い方々が集まってくださるような努力をしています。そして参加してくださる方のクリエイティビティを最大限活かしたいので謙虚でありたいと考えております。
–大所帯チームを率いる監督として、気をつかっているところはどこでしょうか?
草野:子供達にとって楽しい作品を作ることからブレないように気を使っています。クリエイターの独りよがり、自己満足で終わらないように「わかりやすくて面白い」という目標をオープンに掲げて、スタッフそれぞれが楽しんでこの目標に入ってこられるようにしています。能力の高いスタッフが大勢いるので、その力を引き出したいのです。
自分の子供に見せたり、子供がいる親御さんに協力いただいたり、なるべく子供達の生の声を聞くようにも気をつけています。
■常に新しいクリエイティブ表現に挑戦するチーム
–いままで一番うれしかった子供からの意見はどのようなものですか?
草野︰「チーかわいい!」って言ってくれたのが一番うれしいです。
–-いままで一番こだわった演出はどこでしょうか?
草野:全部で51話あるので、似たような話にならないように脚本家チームの皆さんに頑張ってもらっています。毎話、新しい面白さが出るようにこだわっています。その都度面白い演出を考えているので、演出としては、これが一番、というのはなかなか選びきれません。
ですが、時には映像的に、3DCGの技術的に難しい表現にチャレンジすることもしています。例えば、8話ではヨウヘイとチーが見にいった滝の表現には時間をかけました。滝の水の中を紅葉の落ち葉が流れていくのですが、水の表現は物理的な法則を再現しなければならないので、技術的に難しくて、映画ほどの予算と時間がないテレビシリーズで使うのは挑戦でした。観た人から、映画のようにきれいな表現だったと評判で嬉しかったですね。
新しいクリエイティブ表現に挑戦した第8話滝のシーン。
映画のようにきれいな表現であったと評判だった。
–原作の世界観を3DCGアニメにする上で、特に心がけていることはなんでしょうか?
草野:基本スタンスとしては原作の持つ作品性に忠実であるべきと考えて進めています。なので脚本や絵コンテは必ず原作者であるこなみかなた先生や講談社のチーフ・プロデューサーの了承を得て進めています。ですが、漫画を3DCGアニメーションにする上で、関係各位の了承を得た中でいかに遊ぶか?というのもアニメ監督として挑戦している部分です。いろんな動きの面白さが出た方がアニメ作品として大きく育つと思うので、私自身も新しい表現に挑戦しますし、関わってくれているスタッフに挑戦したい表現がある場合にはなるべく取り入れるようにして進めています。
この絵コンテの上段の二本足で立つチーのポーズは『こねこのチー ポンポンらー大冒険』シリーズの中で生み出された
ポーズ。チーのかわいらしさを3DCGアニメで表現することに注力することにより生み出されたポーズとも言える。
–スタッフの方も自分がクリエイターとして挑戦したいことを監督にお伝えできる環境なのですね。
草野:脚本にある面白さをまず絵コンテで膨らませて、その絵コンテをさらに面白くするように動きや演出の表現のアイデアを3DCGスタッフで広げていきたいと思っているんです。脚本や絵コンテに書いてあることをやるだけでは面白い作品にはならないですからね。
■未来を見据えた挑戦を続ける草野公紀監督
–制作チームがクリエイティビティ豊かに作っているから、チーのアニメは毎回新鮮で楽しいのですね。さて、3DCGアニメを見て育った子供たちはセルアニメを見て育った子供たちと何か違った感性が育つものでしょうか?
草野:セルアニメも3DCGアニメも変わりはないです。大切なのは何をどう伝えるか?という中身の部分だと考えています。3DCGは物語を描くための絵筆=道具が一つ増えたようなものなので、セルアニメも3DCGアニメも大きな違いは無いです。
–3DCGの未来性を草野監督はどのようにみていますか?
草野:インタラクティブ性があり汎用性があるところでしょうか?例えばテレビシリーズ用のアニメーション素材として作ったものを使って、VRコンテンツを作ることもできるのが3DCGの魅力ですよ。VRコンテンツでは、アニメの中の世界に入って、チーたちと一緒に山田家のリビングのソファに座っているような仮想体験をすることもできるようになるんです。ただ作品を鑑賞するという意味においては、さらにもう一つ、新しい絵筆が増えたという感じですかね。VRもアニメ制作としてのバリエーションの一つにすぎないと捉えています。
–最後の質問です。チーの企画は、草野監督にどんな刺激をもたらしましたか?
草野:今回チーのアニメを作って、子供向けアニメはやりがいあることを発見しました。今のアニメシーンはコアなアニメファンに向けての作品が多いですが、一昔前は休日のゴールデンタイムに「ハウス名作劇場」のような家族みんなで一緒に観られるような作品がありました。最近ではそうした幅広い層が一緒に観られるテレビアニメ作品が減っています。チーに携わらせていただき子供から大人まで楽しめるアニメの需要を感じ、作り手としてもやりがいがあると手応えを感じているので、そのカテゴリーを盛り上げられれば素敵だなぁって思っています。
あとはビジネス的な話になってしまいますが日本単体だけではなかなかペイできないので、世界を目指して作品を作っていきたいと思っています。3DCGはお金が掛かるので視野を広く世界中の普通の子ども達に刺さるものを発信し続けたいです。
–世界標準で作るからこそ世界で戦えるわけですね。これからもマーザ・アニメーションプラネット社、草野公紀監督を応援しております!チーの作品もまだまだ続くので新しい表現を楽しみに毎話心待ちにさせていただきます。
原作マンガ『チーズスイートホーム』は日本よりも海外で人気を集めている。世界200以上の国と地域で愛されるチーがアニメとなる際には、世界標準の3DCGアニメ制作チームが必要になる。その制作チームを率いるマーザ・アニメーションプラネットの草野監督はチーのアニメ化を通して子供向けアニメに可能性を見出している。毎話新しいクリエイティブ表現にチャレンジし、子供たちの反応を意識しているから発見できたのだろう。クリエイターのチャレンジと、世界へ発信する想いが詰まった作品としてチーのアニメを見ると、新しい価値が発見できる。作り手の想いを感じながら是非『こねこのチー ‐ポンポンらー大冒険 – 』を味わって欲しい。
関連リンク:マーザ・アニメーションプラネット