2018.08.03
「子どもの“楽しい気持ち”をもっと広げてあげたい」てぃ先生
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「子どもたちに 15 分間の幸せを届けたい」草野監督
アニメ『こねこのチー』の草野公紀監督が人気保育士てぃ先生と初対談。てぃ先生は保育園で現役の保育士として働きながら、出版、講演、保育園のプロデュースなどに関わり、子どもたちの可愛らしい言動や行動を綴ったTwitterのフォロワー数が 44 万人を超える大人気 ツイッターでもあります。アニメ監督、保育士、それぞれの立場から、子どもに接する時に大切なことは何か。子どもたちにどんなメッセージを送るべきなのか。さらには『こねこのチー』の楽しさの秘密まで、二人の体験談から解き明かします。
左 草野公紀監督/右 てぃ先生
まず大人が楽しみ、健全でいること。
草野監督「てぃ先生は毎日子どもと過ごしていますよね。子どもに接する上で心がけている ことってありますか?」
てぃ先生「そうですね。いつも平常心でいることでしょうか。自分が平常心を保って、心と 体の健康を心がけていないと、良い保育はできません。でも、なかなかそうもいかない… と、思われる方もいると思います。実はそんなに難しく考えることはないんです。子ども に興味を持たせたいことがあるときには、大人も子どもと同じように楽しんでやってみて、まず大人が興味を持っているしぐさを見せる。すると、子どもは飛びついてきます。 自分が童心に帰って、子ども目線で接してみることが大切なんです」
草野監督「そうですね。自分自身が常に健全でポジティブな状態でいることが大切だと私も思います。ただ、はじめての子育てではなかなかそうはいかなかった。二人目はだいぶ余 裕を持って楽しめるようになりました」
てぃ先生「子育てにみなさん悩んでいらっしゃいますが、今という時代はある意味で子育てに有利な環境になっていると思います。子育てに悩んだ時には、インターネットやSNS の普及で多くの人たちの意見を聞くことができる。知りたい情報をすぐに調べることもできます。ネットワークのおかげで、子育てに関してのフラストレーションが解消されることも多いのではないでしょうか」
多くの子のためではなく、たったひとりのために。
てぃ先生「保育園では保育員一人が見る子どもは複数。1対複数という構成になりますが、 私は 1 対 1 のコミュニケーションを心がけています。「はい、みんな!」ではなく「はい、 〇〇くん」といった言葉かけをするんです。大人にとっては大勢の中の一人の子でも、子どもとってはたった一人の大人ですから」
草野監督「作品をつくる時にイメージするのは、テレビの前にいる一人の子どもです。その一人の子を15分間飽きさせず、他のおもちゃなどに向かせないようにしたいんです。たった一人に突き刺さるメッセージをつくりたい。そのためにあれこれ頭を悩ませ、試行錯誤しています。『こねこのチー』を監督をするにあたり、『この作品はインターネットで世 界中の子どもたちに発信します』と言われ、制作を開始したのですが、私は発想を変え、『初めてアニメを体験する子にも分かりやすく、15 分間ハッピーで過ごせるもの』をつくろう、と思いなおしました」
てぃ先生「アニメも絵本も、それを体験した子どもたちが『ああ、楽しかった』だけでは終わらず、そこからさらに広がるものがあるといいですね。アニメを観終わった後に、お父さんやお母さんとアニメのキャラクターが『あんなことしてたね、こんなことしてたね』 と話が広がってくれてたらいい。保育園でも楽しい絵本を読んだ後には次の遊びにつな がる活動をするようにしています」
草野先生「アニメを観てくれた子が『今日のお話はね、こんなことしてた』と、人に話せるような作品を手掛けていきたいと思っています。少々しんどい展開 があっても最後はハッピーになれるような」
子どもはアニメのキャラに自分を重ねている。
草野監督「先生は『こねこのチー』ご存知でしたか?」
てぃ先生「子どもたちが教えてくれました。保育園でチーの話をしたり、チー語を使う子ど もたちがいて、さっそく観てみたら、とても面白かった。子ども心をくすぐる仔猫の動作やチー独特の言葉がとても魅力的でした」
草野監督「それを聞いてほっとしました(笑) 子どもたちが作品をどんな風に受け取ってくれているのか知りたくて、息子に感想を聞くんです。作品をつくる上で大切にしていることは『子どもから離れないこと』。子どものことをたくさん知りたいので、私が保育園へ毎朝息子を連れていくんです」
てぃ先生「子育てに積極的に参加されているんですね」
草野監督「家事も多少やってますよ。皿洗いが担当なんですが、今朝は皿洗いが終わらなくて、保育園は妻が行ってくれましたが…」
てぃ先生「子どもたちはチーをネコとして見ていませんよね。自分と重なるところに魅力を感じてる」
草野監督「仔猫の行動は息子からヒントを得ています。チーはちょうど息子と同じ 2~3歳のイメージ。嘘はなるべくつきたくない、生の人間をモチーフにした自分が信じられるものをつくらないと、声優さんにも自信を持って演出できません。それに、子どもたちにも チーと同じような体験をしてほしいという気持ちも込めています」
てぃ先生「仔猫たちだけのシーンが多くありますが、保育園では子どもだけの遊びの世界は 日常です。親には見せない子どもたちだけのシンパシーがあるんです。『うちの子はちっとも友だちといっしょに遊ばない』という親の意見をよく聞きます。たとえば、積み木がたくさんある空間で複数の子が遊んでいたとしましょう。それぞれの子はそれぞれの積 み木で別々に遊んでいます。他の子どもと一緒にひとつの積み木で何かをつくったりは していません。でも、子どもたちに訊くと、『〇〇ちゃんと一緒に遊んだ~』と言います。 子どもたちは同じ空間にいるだけで一緒に遊んだと認識します。子どもだけの世界とは こういうもの。みんなまずそこから社会性を学んでいくんです」
草野監督「仔猫のシーンにそんな解釈があるとは驚きです。でも、チーのこれからの話はかわいいだけじゃない、ハラハラする展開になっていっちゃうんです」
てぃ先生「それも、すごく楽しみですね」
(対談 後半に続く)
対談場所:もしもしのほし高円寺保育園
<プロフィール>
てぃ先生 保育士
都内にある園で現役保育士として働きながら、出版、講演、研修、保育園のプロデュースなども精力的に活動。保育園に通う子どもたちのリアルで可愛らしい言動や行動を綴った Twitter(@_HappyBoy)のフォロワー数が44 万3000人超。著書に『ハンバーガグー』『ほぉ …、ここがちきゅうのほいくえんか。』『せんせい!きいて!園児がくれた魔法のことば』他、 ツイートを原作とした漫画『てぃ先生』など。
草野公紀 アニメーション監督
マーザ・アニメーションプラネット所属。マーザの前身であるセガに入社後、ソニックシリ ーズや初音ミクなどのゲームムービーの制作に携わる。2013 年公開の CG アニメーション 映画『キャプテンハーロック』でキャラクターVFX リードアーティストを務める。『こねこのチー ポンポンらー大冒険』で監督デビュー。2 シーズン目の『こねこのチー ポンポンらー大旅行』でも続投中。小学生と保育園児の2児の父親。
「こねこのチー ポンポンらー大旅行」放送情報
テレビ東京系列 6 局にて毎週日曜日あさ7:00~ 放送中
テレビ信州にて毎週水曜日深夜1:59~ 放送中